息子に会いたい

21歳の息子に先立たれてしまった母

わかってもらえない気持ち

私が仕事に復帰した時、母は、

「よかった、立ち直ってくれて」

と言った。


息子が亡くなった直後はとにかく私はぼろぼろだったから、仕事をしている私の姿は、母には以前と変わらぬように見えたのかも知れない。

母は私のことをとても心配してたから、そう思うのもわからなくはないけど。

そんなわけないよ。

まだひと月も経ってなかったのに。

たとえ何年経とうとも、立ち直ることなんてあるとは思えない。


母に心配かけないように平気なふりをして何も言わないけど、そしたら

息子の部屋はもう片付けたのかと会うたびに聞いてくる。


それも無理だ。

部屋に入るだけでも涙が溢れるのに。

いつかはやらなきゃいけないとは思ってるけど、当分はできない。

息子の物を片付けてしまえば、息子のことを忘れられると思ってるのかな。

そんなわけないのに。



母のひとことひとことに心が傷つく。

実の親にでさえも、この気持ちはわかってもらえないんだ。

わかってもらえないから何も言えない。

大切な宝物

息子は、ホームセンターでレジ打ちのバイトをしていた。


ある日、そこの社員の人か誰かが客になりすまして、店員の接客態度とかをチェックする覆面捜査?みたいなことをやっていて、

その時息子は


隣のレジにも聞こえるくらい大きな声で応対しており、挨拶はちゃんとお客様の目を見てお辞儀をし、丁寧さと誠実が感じられた


と褒められたらしい。


息子も喜んでたけど、私もすごく嬉しかった。

ホントに嬉しくて、むちゃくちゃ褒めまくった。



レジを打ってたら、レシートにはその人の名前が記載される。

私は息子の名前が載ったレシートがほしくて、今度行った時に息子のいるレジに並んでもいいかと聞いてみた。

私は他人のふりをして話しかけたりもしないし、私に対しても普通のお客さんとして接してくれたらいいから

いやだったら行かないから

と。

息子は、

別にいやじゃない、いいよ

と言ってくれた。


それから何日かしてから、仕事帰りにふと思いついて行ってみた。

買う物をカゴに入れて息子のいるレジに並んだ。

私に気付いた息子は、何も言わずにいきなり行ったからちょっとびっくりしながらも照れ臭そうにしてた。

「いらっしゃいませ」

とお辞儀されて、つい私も頭を下げてしまった。

息子は慣れた手つきでひと通り終え、商品を受け取った私は、息子の顔を見ながら笑顔で

「どうもありがとう」

と言ったら、

「ありがとうございました」

と深々とお辞儀をされた。


まるでおままごとをしてるみたいだったなと、あとで笑えた。


もらったレシートにはちゃんと息子の名前が載っていた。





その6日後、息子は旅立ってしまった。




あのホームセンターにはもう行けそうにない。



あの時のレシートは私の大切な大切な宝物になった。

5ヶ月

息子がいなくなってからちょうど5ヵ月。


あの日から、涙を流さなかった日は一日もない。


大学生を見たら息子を思い出す。


高校生や中学生を見ても息子を思い出す。


小学生の子を見ても、赤ん坊を見ても息子を思い出す。


どこにいても、

何をしていても、

何を見ても、

全てが息子に繋がる。


思い出す度に涙が溢れる。


でも、娘の前でだけは泣かない、それだけは決めている。

5ヶ月前のあの日、ぼろぼろでどうしようもなかった私の代わりに、いろんな所への連絡や、私の職場への連絡も娘がやってくれた。

お通夜やお葬式のことも全てやってくれた。

娘も弟を亡くして辛かったはずなのに、泣きたかったはずなのに。


だからお葬式を終えた次の日から、もうこれ以上娘に辛い思いをさせないためにも、娘の前で泣くことだけはやめようと決めた。

娘が家にいても泣きそうな時は、トイレかお風呂で泣いた。


外では人の目があるから、必死で感情に蓋をしてなんとかこらえることができるけど、ひとりで車を運転してる時は止められない。

例えば信号待ちで隣の人が私が泣いてるのに気付いたら、

なんだ!?こいつは!?

と思うだろうな。

ばかみたいだ。


いつまでも泣いてばかりではダメだと思うけど、思い出すとどうしても涙が出てくる。

泣かないためには、息子を思わないようにすればいい。

でも、いつも思おうとして思い出してるわけではなく、あらゆる場所や場面で自然と思い出してしまう。

結果、泣いてしまう。

じゃあ、どうすればいいのか。


泣くのを我慢するのは良くない。

泣きたい時には我慢せずに泣いた方がいい。

泣くのをやめるのではなくて、たとえ毎日泣いてばかりでも、自分を責めることはやめて少しずつでも前に向かって進めたらいい。

急には無理だけど、私の心の中から自分を責める気持ちが、ちょっとずつちょっとずつでもなくなっていったらいいなと思う。