世間の目
いつも家から出る時、知ってる人に出会いませんようにと願う。
特に息子のことを知ってる人には。
エレベーターを待ってる間も、中に誰も乗っていないことを願ってしまう。
そんなびくびくしてる自分がいやになる。
私が悪いことをしたわけでもないのに。
もちろん、息子も何も悪いことはしていない。
会うといつも
「こんにちは!」
と笑顔で挨拶していた人が、私を見たとたん慌てて走り去って行ったということがあった。
ショックを受けたわけでもなく悲しくもなかった。
世間ってそんなもんなんだと思った。
子供を自殺に追いやったひどい母親
とか
あそこの家は家庭環境がおかしい
とか、世間の目にはそう映るんだろうか。
実際にそんなことを言われたわけじゃないから、私の被害妄想なのかも知れないけど。
でも、あからさまにそんな態度をとられたらどうしてもそう思ってしまう。
一度、息子の同級生の母親とエレベーターがいっしょになったことがあった。
その人とは今までしゃべったこともなく、ただお互いを知ってるっていうだけの関係。
私が先に乗り、その人があとから乗った。
当然二人ともドアの方を向いて立ってたわけだけど、その人がドアのガラスに映ってる私の顔をじいーっと見てるのがわかった。
乗ってる間ずっと、片時も離さずに。
最低な気分だった。
いつもエレベーターを降りる時に、まだ乗ってる人がいたら、それが知ってる人でも知らない人でも、お先にとかさよならとか声をかけてから降りるけど、その時は黙って降りた。
あとで娘に話したら、
「私やったら、降りる時に振り返ってにらみつけてやるけどな
負けへんで、私は」
って言われた。
娘なら間違いなくそうするだろう。
そうか、私は負けてしまったのか。
私も娘みたいに強くならなければ。
でも、今の私にはそんな気力もない。