理由
彼女ができた時、息子はすぐに私に打ち明けてくれた。
照れ臭そうに話す息子を見て、私はとても嬉しかった。
その彼女とは、ずっと友だちとして付き合っていて、彼女の方から
「好きになったから付き合ってほしい」
と言われたらしい。
バイトが終わったあとの電話でそう言われ、帰って来てすぐに私に話してくれた。
よっぽど嬉しかったんだろうな。
そのあとも彼女とのことはいろいろ話してくれた。
「今日は手をつないだよ」
とか。
写真も、いっしょに撮ったプリクラも見せてくれた。
「どうして僕なんかのことを好きになってくれたのか、不思議でしょうがない」
とも言っていた。
息子は、どうせ僕なんか・・・と、何でもネガティブに考えてしまうところがあったから。
時々息子は、私の頭をくしゃくしゃと撫でることがあった。
いつだったかいつものように頭を撫でる息子の手を、頭痛がして気分が悪かった私は払い除けてしまった。
息子は
「彼女は僕に頭を撫でられるのが好きやで」
と言った。
頭痛のせいもあって、
「彼女が喜ぶからって私も喜ぶとは限らへんわ!」
イラつき気味に言ってしまった。
あの時、息子の手を払い除けたりせずにずっとずっとず~っと撫でてもらえばよかった。
亡くなる前日に、息子は彼女から別れを告げられた。
そのショックが大きすぎて、息子は発作的に自ら死を選んでしまった。
彼女から別れを告げられなければ
彼女と付き合ったりしなかったら
彼女と出会わなかったら
息子は今私のそばにいたのだろうか。
息子の心が弱かった故のことではあるけど、どうしてもそう思わずにはいられない。