母をも羨む
母が入院することになった。
昨夜、急な腹痛と下痢があり、いったん治まったものの、朝には下血も加わり、慌てて病院に行ったら即入院ということになったらしい。
母から電話があって病院に行くと、母はお腹が少しシクシク痛むだけで、見た目は元気そうだった。
月曜日に大腸カメラの検査をするので、それまでは絶食と点滴。
医師には、虚血性腸炎かも知れないと言われたらしい。
病院の隣には中学校があり、病室のある5階からは、グラウンドで部活中の生徒たちの姿が見える。
母が9年前に膝の手術をした時に入院したのも、部屋は違うけど同じ5階だった。
あの時、お見舞いに行くたびに、今日と同じ風景を見ながら、その中にその時中学1年だった息子の姿を捜したものだ。
いるかな~
頑張ってるかな~
と、わくわくしながら。
それを思い出して、涙をこらえながら窓の外を見ていたら、母が
「前に入院した時、あの中に〇〇(息子の名前)はおるんかなぁって思いながらいつも見てたわ」
と言った。
母も同じことを思い出していた。
こんな所にも息子の思い出が詰まっている。
ほんとに、あっちにもこっちにも息子でいっぱい。
あとから兄も駆けつけて来て、しばらくいたあと、別れ際
「来てくれてありがとう」
と言った母の目には少し涙が滲んでいた。
その母の姿を見て、羨ましいと思った。
自分の産んだ子がふたり揃っていて、母のことを心配している、それが嬉しいと感じているであろう母のことが。
自分の母に対しても、子を亡くすという悲しみを知らなくて羨ましいと、そんなふうに感じてしまうものなんだ。