ホワイトデーに
去年のホワイトデーに、息子は私と娘にクレープを買って来てくれた。
そのクレープ屋は、私たち親子のお気に入りのお店で、子どもたちが小さい頃からよく利用していた。
テイクアウト専門のお店で、たくさんの種類のクレープの他に、ソフトクリーム、ポテト、フライドチキンなどがあり、値段も手頃なので、夕方になると下校途中の高校生でいっぱいになる。
息子にお礼を言い、食べようとしたらクレープは2個しかなかった。
息子の分がない。
先に食べてしまったのかと思って聞いてみたら
「ちょっと今、金欠やから、自分の分は買われへんかってん」
と言った。
お金もあまりないのに私と娘のためにわざわざ、しかも、息子も好きだから食べたいはずなのに、自分の分は我慢してまで買ってくれた息子の優しさがとても嬉しかった。
息子の分は
「今度、買って来てあげるからね」
と約束した。
その約束を果たすことはできなかった。
いつでも買って来て、いつでも食べてもらえると思っていた。
息子に、もう買ってあげることができなくなるなんて、思ってもいなかった。
あの時、すぐにでも買いに行けばよかった。
すぐに行って、何度でも行って、たくさん食べさせてあげればよかった。
ごめんね。
クレープ、今でも食べたいよね。
でも、あのお店には行けない。
今は辛すぎて、行けそうにない。
もう少し、もう少ししたら行けるようになるかも知れないから、だから、それまで我慢してて。
ごめんね。
代わりに、大好きだったあのケーキ屋さんのチーズケーキ、買って来たからね。