息子に会いたい

21歳の息子に先立たれてしまった母

願いはただひとつ

私の心の中には、いつも息子がいる

どこにいても

何をしていても


私の前に

横に

ちょっと離れた所にも

見える場所にいつも息子の姿を感じることができる

眠っている時以外はずっと



だけど


楽しくない


嬉しくない




ただ


悲しいだけ


辛いだけ






そばにいなくてもいいから


生きていてほしい


私の願いはただそれだけ





絶対に叶えられない願い





いつまでたっても前に進めない

たら、れば

あの日


私が出かける準備をしていたら、息子が


なんかペンない?


とペンを探していた。





その1時間後に

ペンは息子の書いた遺書の上に置かれてあった。


あの時息子は、遺書を書くためのペンを探していた。



もし私が、


何に使うの?


って聞いていたら、

息子はなんて答えていたのだろうか。





息子はいつも眼鏡をかけていた。

でも逝く時には眼鏡はかけていなかった。


息子ははずした眼鏡を、亡くなった夫の眼鏡の横に並べて置いていた。



もし眼鏡をはずしていなければ


飛び降りる寸前に下を見て


怖い


怖いからやめよう


と思いとどまったりはしなかっただろうか。







たら


れば


なんて

そんなことをいくら考えても

たとえそうだったとしても

何も変わらない。

息子のいないこの現実は変えられない。


それでも


たら

れば


と、また考えてしまう。

時薬

自分の好きなタレントの結婚で

再起不能だった友人が

時薬でかなり回復してきたらしい。


いいよね。

時薬が即効効いて。

すぐに立ち直れて。




もし私に時薬が効くのなら、

だんだんと息子のことを想わなくなるのだろうか。

思い出しても辛くなったり、泣いたりしなくなるのだろうか。


それだったら、

息子のことを忘れることなんて

できるわけないし、

その薬は私には合わない。

効かない。