理解できない人たち
亡くなった夫の家族はみんな変わり者だった。
その中で唯一、夫だけが普通だった。
夫には兄と妹がいるが、夫には持病があったので、義母は夫のことを一番気にかけていて、いつも2週間おきに電話をかけてきていた。
夫は、仕事で疲れているのにこっちは別に話すこともないし、義母の毎回同じような内容の話を長々と聞くのも疲れるからやめてくれと何度も義母に頼んでいたけど、それは24年の結婚生活の間ずっと続けられた。
それだけ自分の息子のことを溺愛してたのに、夫が亡くなった時の義母の行動は、私には理解できない信じられないことばかりだった。
夫が7年前の夏の日の朝、病院で亡くなったあと、そのまま葬儀場には夫の家族もいっしょに行き、私の母も兄の家族も駆けつけてくれた。
夫の家族は、私の家から車で20分ぐらいの所に住んでいるが、義兄だけが東京に住んでいて、その義兄が来るのに新幹線の止まる駅まで迎えに行くからと、義母と義父と義妹は昼過ぎに出て行った。
こんな時に、しかも大の大人をわざわざ迎えに行くのもおかしいと思ったが。
次の日が通夜で、その日は仮通夜だった。
義母たちは義兄を迎えに行ったあと、そのまま自分の家に帰ってしまった。
仮通夜というのは普通は、身内が亡くなった人を見守ってそばについていてあげるものではないのか。
自分の最愛の息子が亡くなったというのに、なんでそばにいてあげずに帰ってしまうのか。
なんでそういうことが平気でできるのか、どういう神経をしているのだろうと不思議でしょうがなかった。
気を遣わなければならない人といっしょにいるよりは気楽でいいわと、私と娘と息子、そして夫と親子四人水入らずでいることにしたけど、夫がかわいそうだからと、私の母もいっしょにいてくれた。
次の日、義母たちが来たのは、通夜の始まる直前。
式のあと、食事をしてすぐに帰り、その次の日にも来たのが、葬儀の始まる直前だった。
まるで一般の弔問客。
自分の息子の葬儀なのに。
火葬場で骨上げの時、みんなでしんみりとしている中で泣いていたら、名前を呼ばれ振り向くと、義母がニコニコ笑って立っていた。
手には小さなタッパーを持って。
「○○ちゃん(夫)のお骨を持って帰るの」
と、信じられないけど満面の笑みでそう言った。
こんな時になんで笑っていられるのか、あまりにも嬉しそうにニコニコしているその姿に、背筋がぞーっとした。
恐ろしさと驚きで言葉が出なかった。
そして義母は、みんなが訝しげに見てる中、嬉しそうにお骨をタッパーに入れていた。
夫の家族とは、そのあと何かの時に一度だけうちに来てもらって以来、一度も会っていない。
あれだけかかってきてた電話も、夫が亡くなった途端パタリとなくなり、私からも連絡していない。
娘と息子のことを、バカがつくぐらいにかわいがって、誕生日には必ずカードとお金を送ってきてたのに、それもピタッとなくなった。
私はもちろん、娘も息子も前々から義母たちのことは嫌っていたから、かえってせいせいした。
息子が亡くなったことも知らせていない。
私は、柩に眠る息子のそばからはずっと離れられずにいた。
何度も何度も
頬を撫で
髪の毛を撫で
名前を呼び
ごめんね
お願いだから起きて
目を覚まして
と。
もう会えなくなってしまうなんて信じられなくて、最期の最期まで息子に触れていたかった。
火葬場で、肉体のなくなった息子の姿を見た時は、足が震えて立っていられなかった。
だから
義母のあの時の態度が
私と同じ立場であったはずの義母が
私には全く理解できずにいる。