たら、れば
あの日
私が出かける準備をしていたら、息子が
なんかペンない?
とペンを探していた。
その1時間後に
ペンは息子の書いた遺書の上に置かれてあった。
あの時息子は、遺書を書くためのペンを探していた。
もし私が、
何に使うの?
って聞いていたら、
息子はなんて答えていたのだろうか。
息子はいつも眼鏡をかけていた。
でも逝く時には眼鏡はかけていなかった。
息子ははずした眼鏡を、亡くなった夫の眼鏡の横に並べて置いていた。
もし眼鏡をはずしていなければ
飛び降りる寸前に下を見て
怖い
怖いからやめよう
と思いとどまったりはしなかっただろうか。
たら
れば
なんて
そんなことをいくら考えても
たとえそうだったとしても
何も変わらない。
息子のいないこの現実は変えられない。
それでも
たら
れば
と、また考えてしまう。